2017夏山合宿 day2
合宿2日目。
私は乗客がバスを降りる音で目を覚ました。
あれは本当に危なかった。逆に何故ギリギリで起きれたのか不思議なくらいだ。
てか、見てないで起こしてよマンちゃん。
バスを降りた私たちは富山駅から立山駅へ移動し、そこからはロープウェイに乗った。
普段はなかなか乗れないロープウェイだ。私は夜行バス同様、言い知れぬ高揚感を覚えていたが、それもやっぱり乗るまでの話だった。
ぶっちゃけ電車である。斜めに傾いた電車である。いや、ちゃんと座れるだけ電車の方が良いかもしれない。
景色?直方体の岩とトンネルの壁はよく見えましたよ。
…ザックが邪魔でイラついてたんです。
ロープウェイを降りた後はまたバスで移動だ。
生憎の曇り空だったものの、途中では火山ガスが吹き出していたり、高所から落ちる滝が見えたり、ボタンが寝顔(変顔)を晒したりとなかなか楽しめた。
運転手さんが要所要所でスピードを落としてくれたのもありがたかった。
室堂に着いた私たちは雨の様子を見るために、少し待機することになった。
しかし、ここで私たちを待ち受けていたのは、硫黄による立山の洗礼だった。
よく、腐った卵の匂いという表現をするが、まさに言い得て妙だと思う。
加えて言うならアンモニアも入ってる。むしろトイレの方が良い匂いと言えば、いかに臭かったかが少しは伝わるのではないだろうか。
実際、私はトイレに篭った。
波乱の幕開けとなった立山だが、なにも悪いことばかりではなかった。
捨てる神あれば拾う神あり。嫌な出会いがあれば、良い出会いもあるのだ。
端的に言うと、私にガールフレンドができた。
彼女は素晴らしかった。
肩口で切り揃えられたガリガリくん色のボブカット。
どこか七夕を感じさせるメルヘンな装い。
今時の流行に乗って薄さと軽さと携帯性を追求したスレンダーなスタイル。
初対面で出会した時には思わず笑いながらツーショットを撮ってしまったくらいだ。今思えばテンションがおかしかった。
あれから連絡もとっていないし名前も知らないが、きっと彼女は今でもあの場所に立っているのだろう。
何故だか、私にはそんな確信があった。
住んでいる次元が1つ違うからかな。
まだ曇り空が広がっているものの、すっかり雨が落ち着いた時分、私たちはやっとキャンプ場へと歩きだした。
なんでも、立山では雷鳥が稀に目撃されるらしい。それは是非とも見てみたい、と私たちは張り切って辺りを見回した。
結果、ムクドリは見れたのだから、全くの無駄ではなかった。
途中、モクモクと立ち昇る湯気だか火山ガスだかが見れたり、なにかしらの成分によって変色した池があったり、普段見かけない植生があったりと興味深いものが多く見れた。
尾根を歩くような道もなかなか面白い。ただ、ガスが咽喉に効いた。
キャンプ場に着く直前で豪雨が降り出した。半ば覚悟していたことではあるが、実際に降られるとなかなか心にくるものがある。
私たちは山の天気の気まぐれさを、その身をもって思い知ることになった。
急いでテントを張った私たちは競うようにして飛び込んだ。テントの中は多少湿度が高いものの、外とは雲泥の差だ。私は文明の力に感謝した。
他のテントも無事に張れたようだが、なにやら隣から悲鳴が聞こえる。どうも雨水がテントに入り込んで浸水しているようだ。
低い人口密度を求めて4テンを選ぶからそうなるのだ、と私たちは彼らを嘲笑った。
中で傘を差した写真を送ってくるのは卑怯だと思う。
このまま雨が止まないのであれば夕餉がカロリーメイトになることも考えていたものの、幸い雨は止み、ちょっと早めの調理タイムと相成った。
献立は男料理でもそこそこ美味しいと評判のみんな大好きカレーである。
調理は和気藹々とした雰囲気ながらもスムーズに進んだ。やはり、マンちゃん料理長は偉大だった。これからはシェフと呼ぼうと思う。
このまま曇りが続くと思われた天候だが、残念ながら降ったり止んだりと不安定であり、この日の登山は中止となった。
そうなると問題になるのが無駄に増えた自由時間である。
当初はカードゲームでもするのかと思いきや、メンバーの大部分が他力本願で持ってこなかったために全テントにセットが回らず、結局はそれぞれが思い思いの時間を過ごすこととなった。
ある者は空中で被写体となり、またある者はベンチで空虚な時間を過ごして被写体となった。
私はトイレの様子を見に行った。めちゃくちゃ虫がいた。
具体的に言うと、和式トイレに腰を下ろしたら上から蜘蛛がミッションインポッシブルしてきた。ふと見上げたら文字通り目と鼻の先だった。ペーパーの消費量が少し増えた。
割と楽しみにしていた天体観測だが、幸い雲は晴れたものの、月が明る過ぎるのかあまり星が見えなかった。
明日も早い。私たちは早々にテントへ引っ込み、寝袋に包まって目を閉じた。
文章:パカ兄
day1
day3