2018春山合宿
行き先:金剛山
早朝5時。
日増しに暖かくなっているとはいえ、日の出前ではまだまだ冷え込むこの季節。それでも日中は暑いだろうと考え、半袖にレインウェアを着込んで家を出た。
扉を開くと同時にけたたましい小鳥の囀りが耳に飛び込んでくる。文章に起こすとンピィチチチチィァ。
部屋の中でも聞こえていたが、どうも近所の木に巣くっているらしい。喧しい見送りを目覚ましに駅まで歩いた。
電車の道中で特筆することは無かったが、目的地の紀見峠駅は中々に趣深い場所だった。
自然に囲まれたレトロな駅舎は見てるだけでテンションが上がる。丁度桜の開花の季節でもあり、暖かな陽射しと合わさって早くも心が浄化された。
いつまでもボーっとしている訳にもいかず、駅前の開けた道路の端に寄ってみんなで準備運動を始める。
日陰に寄ったからか、部長がいつにも増して黒い。上下黒の服装で暑くないのだろうか。パッと見ると、完全に道路と同化していた。
体を伸ばした私たちは早速山道を目指して歩き始めた。まだ民家が散見するエリアではあるが、辺りを見回すと既に緑で一杯である。
途中にある橋からは、なんとも言えない独特な立体構造の景色が臨めた。私の語彙力では力不足なので是非実際に見てみてほしい。
別にオススメスポットというわけではないが、言葉に表しづらいことは分かると思う。
いよいよ本格的な山道に差し掛かる。ついこの間までは茶色の風景だったというのに、今ではどこを取っても青々としている。
頭上を仰げば、木々の隙間から雲ひとつない快晴の空が垣間見えた。嫌になるほど気持ちのいい直射日光が葉に遮られて丁度いい。
意外と快適に思えた山行だが、先に進むにつれて鼻に違和感を覚え始めた。
高台から遠くを見渡すと、なんだか景色が黄色がかって見える。さては花粉かスモッグか。
まあ、十中八九 花粉である。そうか、もうそんな季節か、と感慨深くなるはずもなく、私は鼻にロールペーパーを詰めることを真剣に検討し始めた。
初めは山を体感しながら登っていたものの、2時間もすれば段々食傷気味にもなってくる。
私たちは気を紛らわすためにしりとりを始めた。このしりとりというものは存外に馬鹿に出来ないもので、
なにかしら縛りを加えることで延々と楽しめるスルメ的コンテンツであり、我が山岳部においてはチョコ味のカロメの次くらいの人気を誇っている。
ただ、プレイヤーの知識量に依存しているために、あまりマイナーなお題は回転が悪くなる点はネックであると言える。どうしてポケモンが続かないのか。みんな勉強不足である。
ある程度進むと開けた場所に出た。どうやら休憩場所になっているようで、広場には地図や切り株が設置されていた。
私たちは一度休憩することにし、各々好きな切り株に腰を下ろした。私も適当な場所に座ったのだが、何故かみんなと離れた位置になってしまった。
セルフハブりとは新しい。向こうではウッディがドライフルーツを分け与えている。なんだか悔しいので、私も見せつけるようにキャラメルを口にした。誰も見ていなかった。
一服したらまた出発である。先程同様、景色を楽しみながらしりとりに熱中した。そうこうする内に目的地のキャンプ場に到着した。
昨年も来たが、設備が整っていて過ごしやすい場所である。テントを張って夕食の準備まで寛いだ。
待ちに待った夕食はリーダーの拘りが光る献立だった。簡単に言うと、高野豆腐とヒジキと米。とりあえずリーダーが和食派なのは分かった。
今回のメニューで珍しいのはやはり米だろうか。
いや、確かに米自体はよく使われるのだが、今回は実際に炊飯である。
素人ばかりではあるが、これが意外と上手くいった。しっかり米である。炊きたての米である。
正直失敗すると思っていたので驚いたが、そんなことはおくびにも出さず、絶賛しながら多めに頂いた。
調理を終えてさあ実食だ、と各々適当な席に着いたのだが、なぜか私は女子グループの端に座っていた。
いや、当初は確かに男子ばかりだったはずなのだが、気づいたら女子しかいなかった。
まあ、さっさと席を移れば良い話なのだが、この時の私は謎の負けん気を発揮してその場に居残り続けた。
逃げたら負けだと考えたのである。今思うとどうかしていた。私は持ち前の女子力をフルに活用して無難にその場を乗り越えることに成功した。
伊達に少女マンガを読んでいない。たいようの◯え面白かった。
腹も膨れたところで後片付けをしてテントに戻った。持ってきたお菓子を広げて、雑談やワードウルフで時間を潰す。
マンちゃんの持ってきた芋けんぴが私の芋けんぴの上位互換だったので、なんだか悔しくて黒飴も放出した。せいぜいベットべトに溶けた黒飴を味わうが良いわ。
夜には星を眺めながら友人同士で語らいあう。夏も近づいているので個人的には怪談でもしたかったのだが、反対者多数でいつのまにか猥談になっていた。
これはこれで楽しかったが、少々ハッチャケ過ぎたかもしれない。やはり皆健全であった。
翌日は早朝に起床した。
比較的簡単に作れるサラダパスタを腹に詰め込む。
冷めてはいたが、個人的にはこっちの方が固めで好きかもしれない。麺はコシが強い方が美味しいと思う。
準備を整えて山頂へと出発した。昨年は敢えて厳しいコースを通ったが、今回は楽な道を選んだ。
前回はなんだったのかと思えるほど楽だった。やっぱり緑を掻き分ける道はおかしかったのだと思う。
途中で神社に寄ってお賽銭を投げ、各々願い事をしてから道に戻った。この辺りは道が整備されていて非常に歩きやすい。私たちは目的地まで軽快に歩を進めた。
遂に到着した山頂広場にはライブカメラが設置されていて、定刻になるとサイトに写真が公開される仕組みになっていた。私たちは知らないおじさん達と一緒に笑顔で写真に写った。
ライブカメラで一通り遊んだあとは、もう帰るだけである。延々と続くような階段を軽快に下っていった。
今回は以前にも登ったことのある金剛山だったが、前回と同等かそれ以上に楽しむことができた。後輩達もしっかりしていて安心して部を引退することができる。
また機会があればこのメンバーで登りたい。そう思える良い山行だった。
文章:パカ兄