兵庫高校山岳部

2018年 六甲山全山縦走

行き先:六甲山
 六甲全山縦走とは、六甲山系を西から東まで50数キロもの道のりを歩く山行のことである。山岳部では(私の知る限りでは)年に1度部員みんなでチャレンジすることになっている。
 そんな山岳部の年中行事のようなものに私たちは12月25日というクリスマスにチャレンジしたのである。
 これをお読みの方は、もしお持ちであれば六甲山の地図と照らし合わせながら読んでいただくと面白いかもしれない。
 早朝6時、スタート地点の須磨浦公園に到着した私を待ち受けていたのは、眉毛辺りまで深くかぶり、鼻の高くまでネックウォーマーをして、少し怪しい見た目のオニオンだった。
6:41 私たちはオニオンの格好にツッコミを入れつつ、須磨浦公園を後にした。海面に映る朝日がとてもきれいだった。
7:00 鉢伏山通過。
7:05 旗振山着。
7:10 旗振山発。
7:17 鉄拐山通過。
7:29 おらが茶屋通過。 止まるんじゃねえぞ…
7:54 栂尾山着。栂尾山にたどりつく前には数百段の階段を上るのだが、聞いていたよりあっさり上ることができた。これは普段の山行で感覚が麻痺しているのだろうか。また、鳴門がバーミヤン先輩にべったりしていた。この子、バーミヤン先輩が引退したら生きていけるのだろうか…。非常に心配である。
8:00 栂尾山発。
8:14 横尾山通過。
8:26 馬の背通過。馬の背というのは僕が六甲山系の中でも特に気に入っている部分であり、眺望がとても良いが、かなり危ないところを通る。一歩間違えばただでは済まないだろう。こんなことをする部活はそうそうあるまい。
9:05 妙法寺着。
9:10 妙法寺発。
9:27 高取山入山。気が付くとソルティ先輩がいない。バーミヤン先輩に聞くと、妙法寺あたりから調子が悪く、バスで帰宅されたそうだ。隊の中で(恐らく)バーミヤン先輩の次に体力のあるソルティ先輩が途中リタイアするとは先輩はよほど体調が悪かったのだろう。
9:50 高取神社通過。見慣れた風景に足が速くなった。
9:56 山友登山会広場着。ここで小休憩を取り、各々が行動食を口にした。私はみんなとは少し離れたベンチで寝そべっていた。これが噂に聞くセルフハブりか。
10:05 山友登山会広場発。
ここから、鵯駅を目指すわけなのだが、その道中、私は両足に少し痛みを覚えた。買い物で歩きすぎた時と似たような痛みだったように思える。
そして、私はこの痛みと長らく戦っていくことになる。
10:48 鵯越駅着。オニオンには誠に失礼だが、ここで意外だったことは彼がリタイアしなかったことだ。どんな時もニコニコしている鳴門は大丈夫だろうが、練習で須磨浦公園からここまで来た時にオニオンは「もう限界」と発言しており、正直、私も疲れていたのに彼がリタイアしなかったのは意外だった。また、鳴門が公園のブランコで遊んでいたが、彼はブランコがこげないらしい。次の全縦にはブランコをこげるようになっているか非常に楽しみである。
10:53 鵯越駅発。
11:29 六甲全山縦歩路休憩所着(ベンチたくさんある所)。ここからはアスファルトではなく、足の痛みが和らぐ土の道を歩くので、ありがたい気持ちになった。
11:36 六甲全山縦歩路休憩所発。
11:58 菊水山山頂着。夏にここを通ったときには、体力がなかったために腹にボディーブローをくらったような痛みが体中を支配していたが、今回は比較的楽にたどり着くことができた。
12:08 菊水山山頂発。
12:38 天王吊橋通過。
13:05 鍋蓋山山頂着。山頂のベンチで休憩していると鳴門が切り株からジャンプしたり拾った金具を土に埋めたりして遊んでいた。子供か。
13:10 鍋蓋山山頂発。
13:50 櫻茶屋着。ここであっきー先輩と波多舜が離脱した。正直誠に失礼であるが、普段は多忙であまり練習に来れないアッキー先輩やあまり体力のないと思っていた波多舜がここまで文句ひとつなく歩いてきたのは意外だった。また、ここが隊に迷惑をかける子のなく離脱できる最後の場所であり、私が彼らの立場であった時、正直に離脱できただろうかと考えた。
14:00 櫻茶屋発。
15:11 掬星台着。普段の山行で幾度となくここを訪れているが、今回はあまり休憩することになくここを後にした。のちに総体メンバー選考のためのタイムレースで半泣きになりながらゴール地点のここに歩いていくのだがこの時の僕はまだ知らない。
15:25 掬星台発。
16:04 東屋着。掬星台からの道はアスファルトの道が多いのだが、自然の家から東屋までの道は土の道だったのでつい足が速くなった。
16:10 東屋発。
16:58 ガーデンテラス着。クリスマスということもあり、カップルが多かった。
17:05 ガーデンテラス発。ここからすぐ後からは、日が沈み、ヘッドライトを付けて歩くようになった。
17:45 一軒茶屋通過。この時点になると、足の痛みが深刻になってきており。一歩歩くだけでかかとがかなり痛み、休憩させてほしいと言おうか迷ったが分岐点が近かったのでやめた。
17:57 分岐点着。ここは途中離脱する最終ポイントであり、顧問の先生が離脱するかしないかを一人一人に確認していたが。私は腹をくくってゴールを目指すことに決めた。 18:05 分岐点発。
18:48 船坂峠着。この時点ではもう言葉を発する気も出ず、休憩といってもただ腰を下ろして目を閉じるだけだった
18:55 船坂峠発。
19:20 溝着。溝というのは道路の側溝に足を入れるように座ると椅子のようになる非常にありがたい場所なのだが、もはやそんな思考よりもあと何歩歩けばゴール地点の宝塚につくのかという思考が私の脳を支配していた。
19:25 溝発。ああ、前でムタさん先輩とたってんからアイドルがどうとかいう話と笑い声が聞こえる。私は一歩あるたびに足の骨がどんな形をしているかわかるほどの痛みが走り、もう一歩も歩きたくないというのに、女子の体力は底がないのだろうか。 少し進むと、少し開けて宝塚市内や大阪府を一望できる場所についた。
そこには、満点の星空をひっくり返したような美しい夜景が広がっていた。
「六甲全山縦走 夜景」とネットで調べればいくつか写真を見つけることができるが、あの風景の美しさを本当に知るためには、実際に岩倉山を登らなければいけないように思う。
この、美しい風景を自分の目で見ることができるのが山岳部の、六甲山系の良さの1つなのだろうと私は思う。
それからしばらく歩くと、塩尾寺(えんぺいじ)についた。私は六甲全山縦走のゴール地点と思っている。顧問の先生が縦走を完走して達成感が出てきたかと聞かれたが、あまりの疲労に私は何も答えることができなかった。下り坂が足の骨にこたえる。誰だよ、こんなところに下り坂作ったやつ。六甲山か。みたいな思考が私の中を巣くっていた。
21:25 宝塚駅着。合宿等の感想ならここで終わってもいいのかもしれないが、この六甲全縦はそうもいかない。家に帰るまでが全縦なのである。実際、僕は親に宝塚まで来てもらうか真剣に悩んだほどである。
途中までは、同じ路線を利用していた鳴門とバーミアン先輩が送ってくれることとなった。電車の座席に座ったまま動く気力がないない僕の代わりに乗り換えなければならない電車を調べてくれた。ふと、バーミヤン先輩のスマートフォンを見て衝撃を受けたのが、先輩の最寄り駅ではなく、僕の最寄り駅への到着時刻を調べてられていた。なんとありがたい。バーミヤン先輩の心の優しさを垣間見たような気がする。先輩は聖人か何かなのだろうか。そういえば、塩尾寺に到着したときに、50万円もらえるならこれからガーデンテラスまで往復してもいいとおっしゃっていたような…。
一体、バーミヤン先輩は何者なのだろうか…。
 深いバーミヤン先輩への感謝を胸に抱きながら、僕は最寄り駅に到着した。親に車で迎えに来ていただき、倒れこむように帰宅した。家の中では、とうとう歩行が困難になり、僕は四つん這いで家を徘徊する奇行種と化していた。お風呂に入ると、冷え切った足の末端がお湯で温められていく。お風呂のありがたさをここまで痛感したのはこれが初めてだった。お風呂から上がってみると、どうも足の様子がおかしい。見ると足の皮全体がむけかけていた。足の皮をむいてみたい欲求が頭を支配したが、しばらく痛みで歩けなくなる未来が目に見えていたのでむくのはやめた。そして、今日関わったすべての人に感謝の念を抱きつつ、11時頃、私は床についた。

 あれから、模試を受けたのだが、その帰りに電車に乗った際、六甲山が見える席に座った。その時になって初めて全縦当日には湧いてこなかった、視界に広がる六甲山系を1日ですべて(正確には違うが、)登ったんだという実感は、今でも僕の密かな自信になっている。

あとがき
 今回、感想を一通り書いてみて、私にはパカ兄先輩のような文章は到底書けないと思った。くわちー先輩と言っていることが被ってしまうが、先輩方の文才がうらやましいものである。
文章:キム