夏山合宿2015
これは兵庫高校山岳部2015年夏山合宿でのストーリーである。ものすごーーく長いがこれを読めば夏山合宿で起こったほぼ全てのできごとを知って頂くことができるだろう。
夜9時に三宮に集まる。夏休みの補習が終了し、夏山合宿に出発である。
バスに乗るため大阪に向かう時から大変テンションが高かったさくぞーとむーさんに対し顧問の先生は
「お前ら元気そうやな。おれは3日間布団で寝られへんのがいややわ。」
といっている。本音が出すぎである。
夜行バスに乗って富山駅についた。夜行バスに乗った事で時間の感覚がなんだか変になった。
富山駅で先輩からの差し入れであるバナナを頂いた。
それから一時間程富山地鉄に乗って立山駅へ。電車の中でまさは電車の細部までひたすら写真に記録していた。まさらしすぎる。立山駅から美女平駅までケーブルに乗った。満員過ぎてつかまるつり革も手すりもなかったむーさんはひたすら足の踏ん張りだけで慣性の法則に逆らい、なんとかこけるのはまぬがれた。
バスに乗って室堂に到着。なんて涼しいんだろう。
少し写真を撮ってテン場へ向かう。道はほぼ下りだが20キロ超えの荷物が辛い。早くテン場に着いて一刻も早く荷物をおろしたい一心で歩いていたため、絶景スポットである、みくりが池を写真も撮らずにすっ飛ばしてしまった。が、そのおかげでその後雷鳥にお目にかかることができた。ラッキーである。
奥大日岳は山頂まで行くことはできなかったが、とても綺麗な景色が見れた。劔岳のところに雲海ができていて写真家でなくとも絵になる写真が撮れる素晴らしい天候に恵まれた合宿2日目だった。1日目は?と思った人もいらっしゃるかもしれないが、1日目は夜行バスに乗って終了である。
何もかも完璧に思われるが部室に部員が集結しただけでなにかが起こる山岳部。合宿という4泊5日の長い期間に何も起こらないはずがない。
3日目。メインの三山縦走の日である。午前4時起床。テントから出ると、ただただ寒い。熱帯夜が恋しくなるほど寒い。8.5度だった。このめちゃくちゃ寒い中、朝食にコールドドッグという食べたら寒くなりそうなものを食べた。コーンスープも飲んだがぬるかった。
いざ出発!サブザックでの行動ということで、いつもより身軽な我々は超ハイスピードで進んでいた。調子に乗りすぎたので先生に呼び止められた。
「わしらは年齢という重い荷物を背負っとんねんで?」
一の越に無事辿り着き、雄山をのぼりはじめた。道など無いように思われた。
雄山の山頂に辿りついた。正確に言うと山頂には行ってない。山頂を踏もうと思うとお金がかかるのだ。
「うち、そんな信仰心つよくないからいいわ。」
とさくぞー。みんながそんな気分になり山頂には行かずじまいだった。雄山から富士山がみえた。ん??富士山の上に雲がある。雲?煙に見える。一旦そう思ってしまうと煙にしか見えない。
ひょっとして…我々が文明から離れてる間に富士山は噴火したのか!?
その後登山中にもテン場でも誰も富士山の話はしてなかったところを見ると、富士山は無事だったのだろう。
大汝山からは黒部ダムがみえた。ラッキー!
富士の折立ではどうせなら岩場を登って2999メートルの所までいこう、ということで岩場をのぼりはじめた。岩と岩に隙間があってテトラポットみたいである。
「テトラポットの上歩くの怖いねん。泣きそう。」
とまさがいっている。高所恐怖症らしい。しらたきも高所恐怖症らしく、2人は珍しく意気投合していた。まさ曰く
「おれ初めてしらたきと気合ったわ」
富士の折立から無事に生還し続いて登るのは別山。
後ろからツアーの団体が近づいていた。我々は後にその集団の事を最強軍団と呼ぶようになる。ツアー登山にしては歩くのが速いのだ。それに、顧問の先生が言うには、最強軍団の最強ガイドは後にピッタリくっついて半端ないプレッシャーをかけてくるらしい。その最強ガイドが言った。
「自分たちは速いので先行かせてください。」
この言葉にびびった山岳部員達であったが道を譲る事はせず、別山を登り始めた。最強軍団が後ろに控えていたため自然と歩調が早くなった。別山はしんどかった印象が強い。なんとか最強軍団に抜かされることなく登頂。まさが雷鳥のたまご的な物を発見した。
しらたきだけ見てなかったので教えてあげようとしたらなかなか見つからない。
「卵がしらたきから逃げたんちゃうん?」
まさが言う。しらたきがおこる。いつものパターンである。この後卵はちゃんと発見されたので全員みることができた。めでたし。
剣御前小舎まで下って少々休憩し、雷鳥坂を下ってテン場へ戻った。
我々は想像よりも疲労していたようである。思考がおかしくなってきた。まさは初めは汗を拭いていたが何を思ったか途中から登山靴をものすごく綺麗に拭きだした。
「靴も涼しがっとうわー。」
と謎なことを言っていたという噂もある。
さくぞーはいつもどうりテンションが高かった。
「テンション高いな」
とむーさん。
「だって山やもん」
とさくぞー。
椅子に座ってボーッとしていると、大きな団体がテン場にやってきた。顧問の先生が言った。
「あの人らテントはるん?めっちゃ大きい高床式みたいな超豪華テント建ったらどうする?」
「ログハウスとか建ったりして!?」
としらたき。そんなちょっとした期待に全く応えず団体は超豪華テントどころか普通のテントも張らないままテン場を去って行った。
しばらく休んで疲れもとれてきたので夕食を作り始めた。そこでさくぞーがおもむろに言い出した。
「家でもこんな感じやで。だから山は家や!!」
なんのことですか?
「テンションの話です。」
そんな話してたなあ。
「お花摘みにいってきます!」
さくぞーが急に言った。
ロマンチストなのか?
「いや、トイレ行ってくるって意味。」
顧問の先生2人はこの言葉が気に入った様子である。
「きれいな言葉でいいねぇ。」
「その言葉、流行らせよ。」
合宿中を思い返してみると、「お花摘み」は女子の中ではちょっとした流行語だったかもしれない。
先輩からの差し入れの1つであるコンソメパンチのポテチは気圧の変化に耐えられず破裂したため、夕食と一緒に食された。男子の6テンはコンソメパンチ香るテントになったそうだ。
夕食のカレーを食べ終わりしばしの間、談笑タイム。
「明日の夜ごはんなんやったっけ?」
「きのこリゾット!」
さくぞーがすぐに答えた。きのこのリゾットはさくぞーのお姉さんのアイデア4割、さくぞーのアレンジ3割という感じのレシピである。後にみんなの試行錯誤3割が加わることになる。
「味付は何でするん?」
と先生。
「……」沈黙。
醤油なし、コショウなし。あるのは…干ししいたけから出る出汁ぐらい?きのこリゾット、味なし疑惑勃発。
「粉チーズ!」
「ツナもある!」
じゃあ大丈夫かなぁ…どんな味になるかは明日にならないと分からない。
どういう会話の流れからか進路の話になった。浮かない顔の人が約一名。「なんで楽しい合宿で勉強のはなしせなあかんの?」と小声で囁くまさ。
勉強の話を嫌がるまさと、しらたきとむーさんは洗い物に旅立った。さくぞーはあまった白ご飯で明日の行動食のおにぎりを作ってくれていた。
洗い物もおにぎり作りも終わって先輩からの差し入れを食べようということになった。ねるねるねるねを作ったはいいが、4人でこれをどうやって分けようか…しらたきが初めはあまり食べようとしなかったが、最終的には、4等分して平等にみんな同じ量頂いた。
寝るにはまだ早い6時過ぎだったので7時までカードゲームをすることにした。
UNOでしらたきに勝ったまさの喜びようは半端なかった「おれは勝つ運命やったんや!」と心からの笑顔で言っていた。その後まさはさくぞーにも勝って
「女、子ども全てに対して斬首的な感じやね。」
と言われ少々ショックそうだった。
7時になったので寝る準備を始めた。ハミガキに行こうとしていたら、ピカッと光った。やばい雷だ。しかもそんなに遠くなさそうである。ハミガキから帰ってきて机の上にあった物たちをテントの中に入れた時ちょうど雨が降りだした。
ポ ツ ポ ツ ポツポツポツポツ…ザーーーー
最強の夕立。間一髪テントに潜り込み全員無事だったもののテントに入ったところで全く油断ならない。弾丸のような雨が降りそそぎテントが破れそうである。ポールも折れてしまいそうだ。テントが浸水するという悲劇だけは起きて欲しくない。と思っていると雨は30分もしないうちにおさまった。ホッ
次の朝は6.5度。昨日よりさらに寒い。昨日は防寒着を着用しなかったしらたきも、今日は着用していた。
朝食はアルファ米のわかめご飯と切り干し大根。。先生は別の味のアルファ米で、味付の粉がついていた。先生は、その粉をきのこリゾットの味付けに使うために半分残しておいてくれた。ありがたや。切り干し大根も余ったのできのこリゾットに投入することになった。
出発。雷鳥坂を45分ぐらい登ったところで、おじちゃん1が「あとちょっとやでー」と言った。予定では1時間50分かかる事になっている道をまだ45分ほどしか歩いていないのにそんなことはあり得るのか??と思っていた我々におじちゃん2が声をかけた。「まだまだやでー!楽しいな!いっぱい歩けて。」なんて真逆なことを言うのだろう。でも多分おじちゃん2が正しい。我々が剣御前小舎に辿り着いたのはそれから40分後ぐらいだった。どっちかというとおじちゃん2が正しかったが予定よりだいぶ早く雷鳥坂を突破した。
「早かったなー!」
「いつ休憩するんかなぁと思っててんけどね。」
「ノックアウトさせる気かと思った。」
と先生たち。
剣御前小舎の前で神戸の人に遭遇。KOBE-ZACを背負っていた。ものすごく親近感がわいた。
休憩中にさくぞーが酢昆布を食べている。
「これリゾットに入れる?」
昆布出汁ということか?
「いや、ちょっと…ちゃうくない?」
酢昆布はリゾットメンバーに入れなかった。
ちなみに先生は酢昆布が苦手らしい。
「酢と昆布っていう組み合わせがおかしい」
とのこと。
我々は立山の気候に慣れつつあった。下界では超涼しく感じられるはずの24度で暑いと感じた。
一服剣までの道のりは岩登りという感じだった。高所恐怖症のまさとしらたきは一服剣についても全然身動きしない。写真さえあまり撮ろうとしない。
「足すくむわー」
としらたき。
「ハチはええよな。飛べばええだけやから。おれにも羽があればいいのに。」
と岩場を下るのをかなり怖がっている様子のまさ。
「かっこいー!!写真とろ?」
とさくぞー。
「絶景やなー!」
とむーさん。女子は一服剣を満喫した。
しらたきはサブザックをいじりながら
「これが遺品になるかも」
とまで言っていた。縁起でもない。
高所恐怖症の二人も無事に剣御前小舎までもどってきた。雷鳥坂を下りながら先生がしらたきに言た。
「テン場帰ってそれから20キロ背負って雷鳥坂登ったら歩荷キングって呼んでやるわ。」
しらたきは歩荷中毒だと言われている。三山縦走の時も4リットルの水分を背負って登っていた。
「歩荷キングの前に歩荷大名とかかな。いや、その前に歩荷ざむらいか?一番上は王より神やな。一番上は歩荷ゴッド!!」
歩荷キングと呼ばれたいのかは不明だが、しらたきは
「まあ、どんなけ時間かかってもいいなら…」
などと言っていた。歩荷ゴッド目指して頑張れしらたき。
今日はお楽しみの久しぶりのお風呂である。ベトベト感からの開放!最高だった。
「人間が人間であるためには風呂に入らなければいけない。」
というのが先生の意見。
今日の夕食は噂のきのこリゾットである。まず玉ねぎをみじん切りにする。溢れだした涙が止まらない。むーさんは2個目の玉ねぎにさしかかった。ん?なんかくさい…?内側の層が腐っている。くさいくさいくさい!腐った部分を取り除いて丸く収まった。
切り干し大根と干ししいたけを水で戻して、ツナと例の玉ねぎとともにコッフェルの中に一気に入れる。待つのが面倒になり、サトウのごはんならぬトップバリュのごはんもすぐから参戦。後は感覚で適当に水を入れる。玉ねぎが主張し過ぎなように感じる。適量粉チーズをふりかける。そして味見。おいしい!!
「これはいけるやつや!」
としらたき。まれに見る料理成功例である。カレールーを溶かし、それをかけて食べるとなお美味であった。改良すればもっと美味しく出来そうということで次作るときは、だしのもとと醤油を寿司屋かどこかで少々頂戴して持ってこようということになった。
夕食後はまたまたカードゲームをした。カードゲームをしながら先輩からの残っている差し入れをたべた。うすしお味のポテチとチョコレート味のポップコーンである。コンソメパンチは破裂したがうすしおは無事だったのだ。でも最高潮までふくれている。うすしおはペットボトルで叩いて破裂させるという方法で開封された。
空を仰ぐと入道雲があった。!!また昨日の様な夕立がくるかもしれない。ということで、急いで差し入れを完食した。ハミガキなどを全部終わらせテントの中で寝る準備をしていたが雨が降る気配は全然ない。テントの外に出てみると、少し星がみえた。しばらく空を見上げていると暗くなってきてどんどん星が見え出した。ものすごく寒いがしらたきは半袖だった。しらたきとまさのテンションがおかしい。まさはヘッドランプを
「ライトセーバー!」
と言いながら振り回している。かと思えばしらたきと二人でボクシングごっこみたいなことをしている。聞くところによると、テントの中でスライスサラミをたべてからテンションがおかしくなったらしい。
さくぞーは大量に星座を知っていた。まさのライトセーバーヘッドランプはさくぞーが星座を説明するためのペンライトとしてやくだった。流れ星がいっぱいみえる。天の川もみえる。机の上に寝転んだらいい感じだった。ゆっくり動いている星みたいなものがある。点滅はしていないので飛行機ではない可能性が高い。UFO!?まさは何度も
「UFOがしらたきを吸いにきたんや!」
と言っていた。
一時間弱星を見て、就寝した。
最終日、テントを撤収する。夜露に濡れてまあまあの重量感。グランシはドロッドロだった。朝食のエビピラフは強烈に辛かった。
壮絶な戦いがはじまる。ゴミじゃんけんである。勝った人が持つことになった。むーさんは勝ってしまったためゴミを持つことになった。
室堂ターミナルに向かう。いよいよ立山ともお別れである。
夏山合宿のみんなの感想は
「非の打ち所が無いくらい充実していた」
「とりあえず、めっちゃ楽しかった」
とそんな感じである。
天気良好、雪渓あり、雷鳥あり、スーパー夕立もあり、立山フル満喫コースだった。
これからの合宿も今回の合宿の様に楽しくありますよにと願う。
ご精読ありがとうございました。
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写真:70thむーさん 文章:70thむーさん