山岳部誌1994夏山合宿
夏山合宿 平成6年
上高地─槍ヶ岳─南岳─天狗原─上高地
7月27日21時30分、バスは梅田を出発した。いよいよ夏山合宿の始まりである。今回の合宿には僕自身、かなりの思い入れがあった。山岳部に入部した一つの目的である「3000mを越える」が実現しようとしているからだ。当然トレーニングにも気合いが入る。計画書の作成もハイスピードで進んでいった。着々と準備が整っていく中で、不安がないわけではなかった。3年生を含め、部員誰一人として3000m級の縦走は経験しておらず、高山病等にかかる者が出ないかどうか心配された。
かくしてバスは走り出したが慣れない夜行バスのこと、みな熟睡とはほど遠いまま上高地へと足を踏み入れたのであった。時刻は6時、空気はひんやりとしていて心地よい。神戸の猛暑などどこ吹く風といった感じである。初めて目の当たりにする北アルプスの山々を眺めながら各自で朝食をとり、入山手続きを済ませ、7時「ザックアップ」のかけ声と共に上高地を出発した。今日は槍沢キャンプ地まで15km弱、up400程の緩やかな登りである。
徳沢を過ぎ、横尾に入り昼食になった。ほとんど平らな道だったこともあるが、予定より20分程早い到着である。しかし、横尾を出てすぐに何人かのメンバーが遅れ始め、槍見河原の辺りでは自然と2チームに分かれてしまった。結局、もう少し先のつり橋を渡ったところで正式に2チームに分かれ、先発チームはテント場確保のため槍沢キャンプ地へと急いだ。12時40分、予定より1時間20分早くキャンプ地へ到着。早くもテントが何張りも設営されており、その間をぬって我々のテントを張った。岩がゴロゴロしており、今日も厳しい夜になりそうだ。
時間に余裕が出来たのでのんびりと夕食準備となった。心配された水もたっぷりと使え、すでにベテランシェフと化した我ら2年の包丁さばきが冴えわたった。その夜はミーテイングで顧問の先生に「明日がハイライトや、一番キツイ。覚悟しとけ。」と言われ、いそいそと20時には就寝となった。
7月29日。今日は一気に1300mのupをこなす。朝からとても良い天気だ。山頂までこの空がもつかどうか、かえって不安だ。
6時、ほぼ予定通りの出発である。お隣に幕営していた姫路の高校は槍ヶ岳と槍沢キャンプ地を往復し、今晩も槍沢キャンプ地に泊まるようで、テントは設営したままで装備はサブザックのみ、今日は南岳での幕営の我々はフル装備。「うらやましい」などと思いながら一緒に出発することになった。
昨日とは打って変わった急登、1時間もしないうちに2チームに分けることとなる。
8時30分、やっと槍ヶ岳の頂上が顔を出した。僕がいきり立ってガンガン行っているうちに先発隊の中でもかなりバテた者が出てくる。はやる気持ちを鎮め、ややペースを落とす。
ほぼ予定通り、10時に先発隊は槍ヶ岳山荘に着く。その時頂上で浮石を撤去するためルートが通行禁止となる。その間に昼食をとっていると後発隊が・・・やっと来た。後発の諸君には昼食を待ってもらい、体調不良者1名と先生1名を残して頂上を目指した。途中長く待たされ、とても辛気臭かったが頂上は見晴らしもよく、空は晴れ、「やっぱり日頃の行いが・・・悪いな?」などと思いながら最後に頂上で360度ぐるっと回転してみて、「山っていいよな!」と強く感じた。
後発隊が大きく遅れたことで2時間のタイムロス、テントを担いだ者だけの必殺場所取り先発チームが3人で構成され、先生1人と共に一足先に出撃と相成った。我々4人は4時間前に南岳キャンプ地へ到着、それに送れること2時間で後発隊が到着。そして食事の準備、当然暗闇の中のカレーとなってしまった。さらに、強風のためフライがまくれ上がってしまいパニック。やっと22時就寝となった。
7月30日、今日からは下りのみなので精神的には非常に楽だが、ひざは大爆笑となることが予想される。
登りと同じコースを避けるために南岳から槍沢までは天狗原を通っていくことになっており、また違った楽しみができると思う。
険しい岩場を通り抜けると辺りには雪渓が広がっていた。ついつい掘り起こして下の方の雪を食べてしまった。夏の雪はよいものだ。
その後は何事もなく槍見河原まで降りてきたのだが、朝から気にしていた雲がだんだん濃くなり、横尾の手前で激しい雷雨に見舞われてしまった。このあたりではメンバーの疲れもピークに達しており、雨宿りも兼ねた中休止を横尾でとることになった。今日は徳沢で幕営の予定なので、あと3.6kmの平らな道を行けばよい。雨足が弱まってから徳沢へ向けて出発したが、今までの人生で最も長く、辛く感じた3.6kmであった。しかし、若さの凄みとでもいおうか、次の日は2時間歩いて温泉に入るだけだと分かっていると、夜はハッスル出来てしまうのである。すこしハッスルし過ぎて先生方の怒りをかってしまったが・・・
7月31日、今日は上高地温泉ホテルでのんびり風呂に入って、バスに乗って帰るだけなのでとても気楽だ。ホテル前にザックを置いてメンバーを半分に分け、半分ずつ入浴することになった。僕は後半だったのでのんびりと土産物を見ていたら友達に、「おい、あと30分で朝の入浴時間終わるらしいで。」と言われ、とてもせわしない入浴を強いられることとなった。
一応さっぱりしたところで最終ミーテンィグを終え、バスターミナルへと向かった。バスが来るまで1時間ほどあったので、バスターミナルの大衆食堂で「騙された・・・」と思いながらしけたカツ丼を食べた。
12時30分にやっと帰りのバスに乗り込んだ。このバスは最後部2座席がパノラマカーのようになっていて、とても快適な旅だった。行きのバスはボロッちくて狭いバスで最悪だったが・・・
かくしていろいろなドラマがあった夏合宿も幕を閉じた。